読書のすすめ17 「阿修羅像のひみつ」(興福寺 監修)

読書のすすめ17 「阿修羅像のひみつ」(興福寺 監修)

 奈良興福寺の国宝殿に阿修羅像があります。3つの顔と6本の腕を持った仏像で、少年の顔をしています。右側は下唇をかんであふれる思いをこらえているように見え、左側はすこし厳しい表情です。そして、正面は眉をひそめ、下まぶたが涙を溜めているようなもの哀しげな表情です。見る者の心を惹きつけ、視線をそらせない、まるで内面を見つめ憂いでいるように見えます。

 この阿修羅像が九州国立博物館で特別展示されたさい、文化財用の大型X線CTスキャナを用いて、内部構造調査を行い、その9年間の解析調査・研究の結果を記したのが「阿修羅像のひみつ」です。

 阿修羅像は、粘土で作った原型に麻布(あさぬの)を漆(うるし)で貼り重ねて形を作り、後で粘土を取り除いて空洞にする、脱活乾漆技法(だっかつかんしつぎほう)で作られた像です。体重は15kgと身軽で、火事のたびに救出された経歴があります。この像の内側に、制作当初に作られた原型の3つの顔があることが分かりました。それは、冷たい表情であったり、目のつり上がった強い表情であったり、口の開いた子どもっぽい表情であったり、外側の顔とはまるで違うものでした。

 阿修羅はかつて、好戦的なインドの悪神でしたが、仏教に帰依(きえ)して悟りを開いたとされます。原型では、戦闘神の険しい表情で作られたものの、懺悔(ざんげ)の大切さなどを説く経典を信仰していた光明皇后(聖武天皇の后、藤原不比等の娘)の意向を受け、悟りを開く瞬間の柔らかい表情に変えられたのではないか、と推測されます。また、6つの表情の中に、驚きから懺悔へ、気づきから反省へと深化する心理の変化を表したのではないか、とも考えられます。さらに、光明皇后満1歳を待たず亡くなった皇太子の面影を阿修羅像に重ね、追慕しようとしたのではないかという可能性も指摘されています。

 京都三十三間堂にも阿修羅像がありますが、全く違う顔つきに驚くばかりです。

 

 

 

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